ひとことで言うと#
**Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(求められること)**の3つの円の重なりから、自分にとって最適なキャリアの方向性を見つけるフレームワーク。3つが重なる部分が「理想の仕事」に近い領域になる。
押さえておきたい用語#
- Will(やりたいこと)
- 自分が心から情熱を持って取り組めることのこと。「世間体」や「流行り」ではなく、内側から湧く動機を指す。
- Can(できること)
- 自分が持っているスキル・経験・強みのこと。ハードスキルだけでなく、対人スキルや暗黙知も含まれる。
- Must(求められること)
- 社内の期待や市場の需要など、外部から自分に求められている役割を指す。「やらされ仕事」ではなく「価値を発揮できる場所」と捉える。
- キャリアゾーン(Career Zone)
- Will・Can・Mustの3つがすべて重なる領域である。理想の仕事に最も近いポジションを示す。
Will-Can-Mustの全体像#
こんな悩みに効く#
- 今の仕事を続けるべきか、転職すべきか判断できない
- やりたいことが見つからない、あるいは多すぎて絞れない
- 自分のキャリアの軸が定まらず、場当たり的に仕事を選んでしまう
基本の使い方#
まず「自分がやりたいこと・ワクワクすること」を書き出す。仕事に限定せず広く考えるのがコツ。
書き出すためのヒント:
- 時間を忘れて没頭できることは?
- お金をもらえなくてもやりたいことは?
- 5年後、どんな自分になっていたい?
- 最近「いいな」と思った仕事・働き方は?
ポイント: この段階では「現実的かどうか」は考えない。素直な気持ちを出し切ることが大事。
次に「自分が持っているスキル・経験・強み」を整理する。
棚卸しの切り口:
- ハードスキル: プログラミング、会計、デザイン、語学など
- ソフトスキル: 傾聴力、調整力、プレゼン力、分析力など
- 経験: マネジメント経験、新規事業立ち上げ、海外勤務など
- 他人から褒められること: 自分では当たり前だと思っていることが強みであることが多い
ポイント: 過小評価しがちなので、同僚や上司に「私の強みは何だと思う?」と聞いてみるのも有効。
「今の環境・市場から求められていること」を整理する。
2つの観点で考える:
- 社内のMust: 今のポジションで期待されている役割、会社の方針、チームの課題
- 市場のMust: 業界トレンド、社会的ニーズ、求人市場で求められるスキル
ポイント: Mustは「やらなきゃいけないこと」ではなく「自分が価値を発揮できる場所」と捉えると前向きになれる。
3つの円をベン図として描き、重なり具合を確認する。
- Will × Can: やりたくてできること → 今すぐ挑戦できる領域
- Can × Must: できていて求められること → 今の仕事の安定基盤
- Will × Must: やりたくて求められること → スキルを伸ばせば花開く領域
- Will × Can × Must: 3つすべてが重なる → 理想のキャリアゾーン
3つが完全に重なる必要はない。「今はCan × Mustで安定させつつ、Willに向かってCanを広げていく」というロードマップを描くのが現実的。
具体例#
Will(やりたいこと):
- プロダクトの企画段階から関わりたい
- ユーザーに直接価値を届ける仕事がしたい
- 技術だけでなくビジネス側も理解したい
Can(できること):
- フロントエンド開発(React/TypeScript、5年の実務経験)
- API設計・実装
- コードレビュー、後輩指導
- 技術選定の提案
Must(求められること):
- 社内:テックリードとしてチームを牽引すること
- 市場:プロダクト思考を持つエンジニアの需要が前年比40%増
分析結果:
- Will × Can:技術力を活かしてプロダクト開発に関わることは今すぐできる
- Can × Must:テックリードとしての役割は今の強みで十分対応可能
- Will × Must:「プロダクト思考を持つエンジニア」は市場ニーズとも合致
- 3つの重なり:プロダクトマネジメントに近いテックリード → PdMエンジニア
アクションプラン:
- 社内のプロダクト企画会議にオブザーバーとして参加する
- ユーザーインタビューに同席させてもらう
- 半年以内にプロダクトマネジメントの基礎を学ぶ
漠然と「企画もやりたいな」と思っていたが、Will-Can-Mustで整理したことで「PdMエンジニア」という具体的なキャリア方向が定まった。半年後にプロダクトチームへの異動を実現し、年収は480万円から550万円にアップ。
Will(やりたいこと):
- もっとクリエイティブな仕事がしたい
- 人の前に立って提案やプレゼンをしたい
- マーケティングに興味がある
Can(できること):
- 事務処理の正確さとスピード(社内で処理件数トップ)
- Excel上級(マクロ、ピボットテーブル)
- 顧客からの問い合わせ対応(感謝のメールが月平均8件)
- 資料作成(PowerPointでの提案資料が営業チームに好評)
Must(求められること):
- 社内:営業チームの業務効率化、CRMデータの整理
- 市場:マーケティングオートメーション(MA)ツールを使える人材の需要増
分析結果:
- Will × Can:資料作成力×プレゼン欲 → 営業資料の企画提案は今すぐできる
- Can × Must:Excel力×CRMデータ整理 → 今の業務の安定基盤
- Will × Must:マーケ興味×MA需要 → スキルを伸ばせば花開く
- ギャップ:MAツールのスキルを追加すれば、3つが重なる
アクションプラン:
- HubSpotの無料認定資格を3ヶ月で取得
- 社内のマーケチームに「CRMデータ分析で手伝えることがある」と声をかける
- 月1回、営業チーム向けのデータ分析レポートを自主的に作成する
「営業事務」のCanだけで仕事をしていたが、Willのマーケティング×MustのMA需要の接点に気づき行動。HubSpot資格取得後、マーケティング部門への異動が実現。年収は350万円から420万円にアップし、「毎日ワクワクしながら仕事ができるようになった」。
Will(やりたいこと):
- 正直、今の仕事自体に情熱はない
- ただ「後輩を育てること」「仕組みを作ること」は好き
- 定年まで食いっぱぐれない安定も重要
Can(できること):
- 品質管理15年の深い専門知識(ISO9001審査員補資格)
- 現場改善のファシリテーション(年間20件の改善提案を推進)
- Excel VBAでの検査データ自動集計ツール開発
- 新人教育プログラムの設計・運営(3年で離職率を20%→8%に低下)
Must(求められること):
- 社内:品質管理のDX推進、海外工場の品質標準化
- 市場:製造業の品質DXコンサルタント需要が急増(経験者年収800万円超のポジションあり)
分析結果:
- Will × Can:人材育成×教育設計 → 「育てる」が情熱の源泉
- Can × Must:品質管理×DX推進 → 今の環境で最も価値を出せる
- Will × Must:仕組み作り×品質標準化 → 海外展開の仕組みづくりに挑戦可能
- 3つの重なり:「品質管理DX × 人材育成」で社内外のポジションが見える
アクションプラン:
- 海外工場の品質標準化プロジェクトにリーダーとして手を挙げる
- 品質管理のe-ラーニング教材を自ら開発し、海外工場に展開する
- 将来的に品質DXコンサルタントとしての独立も視野に入れる
「仕事自体に情熱がない」という状態から、Willの深掘りで「人を育て、仕組みを作る」という本質的なモチベーションを発見。海外品質標準化プロジェクトのリーダーに就任し、年収は600万円から700万円にアップ。「品質管理が好きなんじゃなくて、仕組みを作って人が成長するのが好きだったんだ」と気づいた。
やりがちな失敗パターン#
- Willが「世間体」に引っ張られる — 「AIエンジニアになりたい」が本当のWillなのか、流行りに乗っているだけなのかを見極める。「なぜそれをやりたいのか」を3回深掘りすると本音が出てくる
- Canを過小評価する — 「3年やっただけだから大したことない」は謙遜しすぎ。他の人から見れば十分な専門性であることが多い。第三者の意見を必ず聞く
- Mustを「やらされ仕事」と捉える — Mustは制約ではなく「自分が価値を出せる場所」。Mustの中にWillやCanとの接点を見つけることが、キャリアを動かすカギになる
- 一度描いて終わりにする — Will・Can・Mustはすべて時間とともに変化する。半年〜1年に1回は3つの円を描き直し、重なりの変化を確認することで、キャリアの舵取りが的確になる
企業での実践例 — リクルート#
Will-Can-Mustはリクルート社の人事制度の中で生まれ、社内のキャリア開発ツールとして長年運用されてきたフレームワークである。リクルートでは半期ごとのマネージャーとの面談で、メンバー一人ひとりがWill(やりたいこと)・Can(できること)・Must(会社から期待される役割)を3つの円のベン図として描き出し、キャリアの方向性と目標設定を議論する。この面談は「Will-Can-Mustシート」と呼ばれる定型フォーマットで行われ、上司と部下の対話の起点として全社的に浸透している。
リクルートの人事の特徴は、Mustを「やらされ仕事」ではなく「あなたに期待している役割」として肯定的に位置づけている点にある。たとえば新規事業の立ち上げをMustとしてアサインし、本人のWill(起業したい)やCan(営業力がある)と接続させることで、会社のニーズと個人のキャリア志向を両立させる設計になっている。リクルートが「人材輩出企業」と呼ばれ、多数の起業家や経営者を生み出してきた背景には、このフレームワークによる個人の主体的なキャリア設計の文化がある。現在ではリクルートグループ外の企業やキャリアコンサルタントにも広く採用され、日本のキャリア開発におけるデファクトスタンダードの一つとなっている。
まとめ#
Will-Can-Mustは「やりたいこと・できること・求められること」の3軸でキャリアの現在地と方向性を整理するフレームワーク。3つの完全な一致を目指すのではなく、重なりを少しずつ広げていくプロセスが大事。定期的に(半年〜1年に一度)見直すことで、キャリアの舵取りが格段にしやすくなる。