ハーシー状況対応型リーダーシップ

英語名 Situational Leadership Hersey
読み方 シチュエーショナル リーダーシップ ハーシー
難易度
所要時間 30分〜1時間
提唱者 ポール・ハーシー、ケン・ブランチャード
目次

ひとことで言うと
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部下の「能力」と「意欲」の組み合わせを見極め、指示型・コーチ型・支援型・委任型の4スタイルを切り替えるリーダーシップ理論。1977年にハーシーとブランチャードが提唱し、世界中のマネジメント研修で採用されている。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
成熟度(Readiness Level)
部下がある業務を遂行するための能力と意欲の組み合わせのこと。R1(低)からR4(高)の4段階で評価する。
指示的行動(Directive Behavior)
リーダーが「何を・いつ・どのように」やるかを具体的に伝えるタスク志向の行動
支援的行動(Supportive Behavior)
傾聴・承認・励ましなど、部下の心理的安全を高める関係志向の行動を指す。
委任(Delegating)
業務の意思決定と実行を部下に任せるスタイル。成熟度の高いメンバーに対して有効な関わり方。

ハーシー状況対応型リーダーシップの全体像
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成熟度×リーダーシップスタイルの対応関係
S1:指示型高指示・低支援具体的に教える手順を細かく指定S2:コーチ型高指示・高支援理由を説明しながら意見も聞くS3:支援型低指示・高支援自分で考えさせ後押しするS4:委任型低指示・低支援任せて見守る結果で確認部下の成熟度R1(低い) ←―――――――――――――→ R4(高い)R1能力低・意欲低不安で動けないR2能力低・意欲高やる気はあるR3能力高・意欲低自信がないR4能力高・意欲高自走できるポイント同じ部下でもタスクが変われば成熟度は変わる「人」ではなく「人×タスク」で判断する
状況対応型リーダーシップの実践フロー
1
タスクを特定
部下に任せたい業務を具体的に定義する
2
成熟度を判定
そのタスクに対する能力と意欲をR1〜R4で評価
3
スタイルを選択
成熟度に合ったS1〜S4のスタイルで関わる
成長に合わせ移行
部下の成長を観察し、スタイルを段階的に委任へシフト

こんな悩みに効く
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  • 部下によって接し方を変えたいが、基準がなくて感覚頼みになっている
  • 新人に任せたら失敗し、ベテランに細かく指示したら嫌がられた
  • チーム全体の成長スピードを上げたいが、どこから手をつけるか分からない

基本の使い方
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タスクごとに成熟度を評価する
部下の成熟度は「人単位」ではなく「人×タスク単位」で判断する。たとえば営業経験5年のメンバーでも、新しいCRMツールの操作はR1かもしれない。具体的なタスクを書き出し、それぞれについて能力(できるか)と意欲(やりたいか)を4段階で評価する。
対応するスタイルを選択する
R1にはS1(指示型)、R2にはS2(コーチ型)、R3にはS3(支援型)、R4にはS4(委任型)を基本として適用する。迷ったら「指示を増やすべきか、支援を増やすべきか」の2軸で考えると判断しやすい。
成長を観察しスタイルを移行する
同じスタイルをいつまでも続けない。部下がタスクに慣れてきたらS1→S2→S3→S4と段階的にシフトする。移行のサインは「指示なしで動けるようになった」「質問の質が上がった」「自分で改善提案を出すようになった」など。

具体例
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例1:飲食チェーンの新人アルバイト教育で離職率を下げる

従業員120名の居酒屋チェーン(8店舗)。新人アルバイトの3ヶ月以内離職率が 42% に達していた。

店長が全員に同じマニュアルを渡して「見て覚えて」と放置していたのが原因。状況対応型リーダーシップを導入し、入店後の段階を3つに分けた。

期間成熟度スタイル具体的な対応
初日〜2週間R1S1:指示型先輩が横について手順を1つずつ実演
2週間〜2ヶ月R2S2:コーチ型なぜその手順なのか理由を説明、質問タイムを設置
2ヶ月〜R3→R4S3→S4シフトリーダー業務を段階的に委任

6ヶ月後、3ヶ月以内離職率は 42% → 19% に改善。教育コストも年間で約 180万円 削減された。

例2:IT企業が中途エンジニアのオンボーディングを設計する

従業員350名のSaaS企業。中途入社エンジニアが戦力化するまで平均6ヶ月かかっていた。

技術力は高いがドメイン知識がない中途社員に対して、全員に同じS4(委任型)で接していたことが問題だった。プロダクト知識についてはR1〜R2、コーディングについてはR4という「タスク別の成熟度マップ」を作成。

プロダクト理解のタスクにはS1で週次のペアプログラミングを設定し、コードレビューはS4で本人に裁量を持たせた。戦力化までの期間は平均 6ヶ月 → 3.5ヶ月 に短縮。入社3ヶ月時点のエンゲージメントスコアも 3.2 → 4.1(5点満点)に上がった。

例3:地方信用金庫がベテラン職員のDX推進を支援する

職員280名の地方信用金庫。窓口業務のデジタル化を進めたいが、勤続20年以上のベテラン職員がタブレット端末の操作に強い抵抗感を示していた。

ベテラン職員は窓口対応スキルではR4だが、デジタルツールについてはR1。ところが管理職は「ベテランだから大丈夫」とS4で接していた。

タスク別にスタイルを切り替え、タブレット操作はS1で1日30分の少人数レッスンを3週間実施。操作に慣れてきた段階でS2に移行し「なぜデジタル化するのか」を顧客事例とともに共有した。3ヶ月後、タブレット活用率は 15% → 73% に到達。ベテラン職員の中から自主的にマニュアルを改善する動きまで生まれた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 「人」単位でスタイルを固定する — 「あの人はベテランだから放任」と決めつけ、新しいタスクでもS4を適用してしまう。成熟度はタスクごとに変わることを忘れない。
  2. いつまでもS1から移行しない — 指示型が楽でつい続けてしまうが、部下の成長機会を奪っている。定期的に「まだこのスタイルは必要か」と自問する。
  3. R3の部下にS1で接する — 能力はあるが意欲が低い部下に細かく指示すると、さらにモチベーションが下がる。必要なのは傾聴と承認(S3)。
  4. 成熟度の判定を本人に伝えない — 「あなたはこのタスクでR2だからS2で関わる」と共有するほうが、部下も成長の見通しが立つ。秘密にするメリットはない。

まとめ
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状況対応型リーダーシップは、リーダーが自分のスタイルに部下を合わせるのではなく、部下の状態にリーダーが合わせるという発想の転換を求める。判断の軸は「人」ではなく「人×タスク」の成熟度。S1からS4への移行を意識することで、部下の自立を促しながらチーム全体の実行力を高められる。