ひとことで言うと#
部下の「能力」と「意欲」の組み合わせを見極め、指示型・コーチ型・支援型・委任型の4スタイルを切り替えるリーダーシップ理論。1977年にハーシーとブランチャードが提唱し、世界中のマネジメント研修で採用されている。
押さえておきたい用語#
- 成熟度(Readiness Level)
- 部下がある業務を遂行するための能力と意欲の組み合わせのこと。R1(低)からR4(高)の4段階で評価する。
- 指示的行動(Directive Behavior)
- リーダーが「何を・いつ・どのように」やるかを具体的に伝えるタスク志向の行動。
- 支援的行動(Supportive Behavior)
- 傾聴・承認・励ましなど、部下の心理的安全を高める関係志向の行動を指す。
- 委任(Delegating)
- 業務の意思決定と実行を部下に任せるスタイル。成熟度の高いメンバーに対して有効な関わり方。
ハーシー状況対応型リーダーシップの全体像#
こんな悩みに効く#
- 部下によって接し方を変えたいが、基準がなくて感覚頼みになっている
- 新人に任せたら失敗し、ベテランに細かく指示したら嫌がられた
- チーム全体の成長スピードを上げたいが、どこから手をつけるか分からない
基本の使い方#
具体例#
従業員120名の居酒屋チェーン(8店舗)。新人アルバイトの3ヶ月以内離職率が 42% に達していた。
店長が全員に同じマニュアルを渡して「見て覚えて」と放置していたのが原因。状況対応型リーダーシップを導入し、入店後の段階を3つに分けた。
| 期間 | 成熟度 | スタイル | 具体的な対応 |
|---|---|---|---|
| 初日〜2週間 | R1 | S1:指示型 | 先輩が横について手順を1つずつ実演 |
| 2週間〜2ヶ月 | R2 | S2:コーチ型 | なぜその手順なのか理由を説明、質問タイムを設置 |
| 2ヶ月〜 | R3→R4 | S3→S4 | シフトリーダー業務を段階的に委任 |
6ヶ月後、3ヶ月以内離職率は 42% → 19% に改善。教育コストも年間で約 180万円 削減された。
従業員350名のSaaS企業。中途入社エンジニアが戦力化するまで平均6ヶ月かかっていた。
技術力は高いがドメイン知識がない中途社員に対して、全員に同じS4(委任型)で接していたことが問題だった。プロダクト知識についてはR1〜R2、コーディングについてはR4という「タスク別の成熟度マップ」を作成。
プロダクト理解のタスクにはS1で週次のペアプログラミングを設定し、コードレビューはS4で本人に裁量を持たせた。戦力化までの期間は平均 6ヶ月 → 3.5ヶ月 に短縮。入社3ヶ月時点のエンゲージメントスコアも 3.2 → 4.1(5点満点)に上がった。
職員280名の地方信用金庫。窓口業務のデジタル化を進めたいが、勤続20年以上のベテラン職員がタブレット端末の操作に強い抵抗感を示していた。
ベテラン職員は窓口対応スキルではR4だが、デジタルツールについてはR1。ところが管理職は「ベテランだから大丈夫」とS4で接していた。
タスク別にスタイルを切り替え、タブレット操作はS1で1日30分の少人数レッスンを3週間実施。操作に慣れてきた段階でS2に移行し「なぜデジタル化するのか」を顧客事例とともに共有した。3ヶ月後、タブレット活用率は 15% → 73% に到達。ベテラン職員の中から自主的にマニュアルを改善する動きまで生まれた。
やりがちな失敗パターン#
- 「人」単位でスタイルを固定する — 「あの人はベテランだから放任」と決めつけ、新しいタスクでもS4を適用してしまう。成熟度はタスクごとに変わることを忘れない。
- いつまでもS1から移行しない — 指示型が楽でつい続けてしまうが、部下の成長機会を奪っている。定期的に「まだこのスタイルは必要か」と自問する。
- R3の部下にS1で接する — 能力はあるが意欲が低い部下に細かく指示すると、さらにモチベーションが下がる。必要なのは傾聴と承認(S3)。
- 成熟度の判定を本人に伝えない — 「あなたはこのタスクでR2だからS2で関わる」と共有するほうが、部下も成長の見通しが立つ。秘密にするメリットはない。
まとめ#
状況対応型リーダーシップは、リーダーが自分のスタイルに部下を合わせるのではなく、部下の状態にリーダーが合わせるという発想の転換を求める。判断の軸は「人」ではなく「人×タスク」の成熟度。S1からS4への移行を意識することで、部下の自立を促しながらチーム全体の実行力を高められる。