ひとことで言うと#
キャリアは「見つける」ものではなく「自分で物語として構築する」もの。過去の経験や幼少期の記憶に一貫するテーマを見出し、それを未来のキャリアに繋げていくナラティブ・アプローチの理論。マーク・サビカスが提唱。
押さえておきたい用語#
- ライフテーマ(Life Theme)
- 人生を通じて繰り返し現れる一貫した関心や課題。幼少期の経験にルーツを持つことが多い。
- キャリアストーリー
- 過去・現在・未来をつなぐ自分のキャリアの物語。断片的な経験に意味とつながりを与える。
- キャリア構築インタビュー(CCI)
- サビカスが開発した5つの質問からなる構造化インタビュー。ロールモデル・好きな雑誌・趣味・好きな物語・幼少期の記憶を聞く。
- 脱構築と再構築
- 既存のキャリア物語を一度ばらし(脱構築)、新しい視点で**組み直す(再構築)**プロセス。
サビカスのキャリア構築理論の全体像#
こんな悩みに効く#
- キャリアに一貫性がなく、「自分は何がしたいのか」がわからない
- 転職を繰り返しているが、次こそは納得のいく選択をしたい
- 仕事の経験がバラバラで、ストーリーとして語れない
基本の使い方#
以下の質問にじっくり答える。正解はないので、思い浮かぶままに。
- ロールモデル: 子どもの頃に尊敬していた人は誰?(3人挙げる)その人のどこを尊敬していた?
- メディア: よく読む雑誌やWebサイト、見るTV番組は?何に惹かれる?
- 物語: 好きな映画・小説・漫画は?主人公のどこに共感する?
- 格言: 好きな言葉や座右の銘は?
- 幼少期の記憶: 一番古い記憶を3つ教えてください
5つの質問への答えを俯瞰し、繰り返し現れるキーワードやパターンを探す。
- ロールモデルに共通する特徴は?→ それが「なりたい自分」
- 好きな物語の主人公に共通するテーマは?→ それが「人生のテーマ」
- 幼少期の記憶に共通する感情は?→ それが「原動力」
見つけたテーマを軸に、次のキャリアの方向性を言語化する。
- 「自分のテーマは○○だから、次は△△に進むのが自然だ」
- 過去のバラバラな経験がテーマで繋がると、転職面接でも一貫した物語として語れる
具体例#
新卒で人材紹介会社 → 不動産営業 → IT企業の法人営業と転職を重ねた32歳。「自分は飽きっぽいだけでは」という自己評価に悩んでいた。
CCIの結果:
- ロールモデル: 父(町工場の経営者)、学校の進路指導の先生、サッカーの監督
- 好きな物語: 『SLAM DUNK』(素質のない主人公が努力で成長)
- 幼少期の記憶: 近所の年下の子どもたちに遊びを教えて「ありがとう」と言われた
共通テーマ: 「人の可能性を引き出す」
人材紹介では求職者の転職を支援し、不動産では「初めてのマイホーム」を実現させ、IT営業では顧客のDXを支援していた。業界はバラバラでも、やっていたことの本質は同じだった。
テーマが見えたことで「次は人材育成の領域に進みたい」と方向性が定まった。IT企業内で研修部門への異動を実現し、営業経験を活かした実践的なセールス研修を設計。受講者満足度 4.6/5.0 と高い評価を得ている。
製薬会社の研究職を7年務めた後、出産を機に退職。子どもが小学校に入り、復職を考え始めたが「7年のブランクで研究には戻れない」と壁を感じていた。
CCIの結果:
- ロールモデル: 大学の恩師(難しい論文をわかりやすく解説してくれた)、NHKの科学番組の司会者
- 好きなメディア: 科学雑誌、子ども向け実験動画
- 格言: 「わかるとは、言い換えられること」
- 幼少期の記憶: 祖母に理科の実験を見せて「すごいね」と言われたこと
共通テーマ: 「難しいものをわかりやすく伝える」
研究職そのものへの復帰ではなく、「サイエンスコミュニケーション」という新しいフィールドが見えた。製薬会社のメディカルライティング部門にパートタイムで復帰し、医療従事者向け資料の「わかりやすい翻訳」を担当。
復帰1年で正社員に転換。年収は研究職時代の 70% だが、テーマに合致した仕事に「毎日が充実している」と語る。
市役所の産業振興課で28年。定年後のことを考え始めたが「公務員の経験は民間で通用しない」という思い込みがあった。
CCIの結果:
- ロールモデル: 地元の商店街の会長(人をつなげるのが上手かった)、中学の担任(一人ひとりを見てくれた)
- 好きな物語: 『下町ロケット』(地方の小さな会社が大企業に挑む)
- 幼少期の記憶: 町内会の祭りで、大人たちが協力して準備している姿に感動した
共通テーマ: 「地域の人と人をつなげる」
28年間の公務員生活を振り返ると、一番やりがいを感じていたのは企業誘致でも予算策定でもなく、地元企業と大学をつなげて共同研究を実現させたときだった。
テーマに沿って、定年後は地域の「中小企業支援コーディネーター」として活動する方向性を決めた。定年の2年前から商工会議所でのボランティアを開始し、退職までに地元企業 15社 とのネットワークを構築。定年後はスムーズにコーディネーターとして独立できた。
やりがちな失敗パターン#
- テーマを「カッコいいもの」にしようとする — テーマは自分の中から自然に浮かぶもの。取り繕ったテーマは実行段階で違和感が出る
- 幼少期の記憶を軽視する — 「子どもの頃のことなんて関係ない」と飛ばす人が多いが、CCIでは幼少期の記憶が最も重要な手がかりとなる
- テーマを1つに絞り込めない — 複数のテーマが出てくるのは自然。ただし、最も強く繰り返し現れるものを中心に据えること
- 物語を作って終わりにする — テーマが見えたら、次は具体的な行動に移す「次の章」を書くこと。内省だけで終わるとただの自己満足になる
まとめ#
サビカスのキャリア構築理論は「キャリアは物語として構築できる」という考え方。一見バラバラな経験も、ライフテーマという糸で繋ぐと一貫したストーリーになる。5つの質問に正直に答え、繰り返し現れるテーマを見つけること。そのテーマが、次のキャリアの「次の章」を書くための羅針盤になる。