ひとことで言うと#
リーダーシップには**6つの段階(パッセージ)**があり、各段階に進むときに「仕事のスキル」「時間の使い方」「仕事の価値観」の3つを根本的に転換する必要がある。前の段階の成功パターンを捨てないと、次の段階では失敗する。
押さえておきたい用語#
- パッセージ(Passage)
- リーダーシップのある段階から次の段階への転換点を指す。全6段階あり、各パッセージでスキル・時間・価値観の3つを根本的に変える必要がある。
- IC(Individual Contributor)
- マネジメント職ではなく自分の専門スキルで直接成果を出す個人貢献者のこと。エンジニア、デザイナー、営業担当などが該当する。
- 価値観の転換
- 「何を重要と考えるか」を変えること。例えば**「自分の成果を誇る」から「部下の成果を誇る」への転換**。3つの転換のうち最も難しく、最も重要。
- 手放し(Letting Go)
- 前の段階で成功をもたらしたスキルや行動を意図的に放棄すること。「自分でやった方が早い」を手放すことが次の段階への必須条件。
リーダーシップパイプラインの全体像#
こんな悩みに効く#
- プレイヤーとして優秀だったのに、マネージャーになったら成果が出ない
- 自分はリーダーシップのどの段階にいて、何を身につけるべきかわからない
- 部長に昇進したが、課長時代と同じことをやってしまっている
基本の使い方#
リーダーシップパイプラインの6つのパッセージ。
- 自己管理→他者の管理: IC(個人貢献者)から初めてのマネージャーへ
- 他者の管理→マネージャーの管理: マネージャーのマネージャー(課長→部長的な転換)
- マネージャーの管理→機能部門の管理: 一つの部門全体を統括
- 機能部門の管理→事業の管理: 損益責任を持つ事業責任者
- 事業の管理→グループの管理: 複数事業を統括
- グループの管理→全社の管理: CEO、経営トップ
ポイント: 大半のビジネスパーソンにとって最も重要なのは、パッセージ1(IC→マネージャー)とパッセージ2(マネージャー→マネージャーのマネージャー)。
各パッセージで転換すべき3つの要素。
仕事のスキル(何ができるか):
- パッセージ1の例:個人の技術力 → 計画策定、アサイン、コーチング、評価
- パッセージ2の例:直接マネジメント → マネージャーの選抜・育成・評価
時間の使い方(何に時間を使うか):
- パッセージ1の例:自分の作業80% → 部下の支援・育成50%以上
- パッセージ2の例:現場の問題解決 → 組織設計・戦略策定
仕事の価値観(何を重要と考えるか):
- パッセージ1の例:自分の成果を誇る → 部下の成果を誇る
- パッセージ2の例:自分のチームの成功 → 複数チームの成功
最も見落とされるのが「価値観の転換」。 スキルと時間配分は変えやすいが、「何に価値を置くか」の転換が最も難しく、最も重要。
今の自分がどの段階にいて、転換がどこまで進んでいるかを診断する。
診断の問い:
- 自分の時間の使い方は、今の段階にふさわしいか?
- まだ前の段階の仕事を手放せずにやっていないか?
- 今の段階で本来やるべきなのに、やれていないことは何か?
典型的な問題パターン:
- マネージャーなのに自分でコードを書いている(スキルが未転換)
- 部長なのに個々のメンバーの仕事に口を出す(時間の使い方が未転換)
- 事業責任者なのに技術的な問題解決に時間を使いすぎる(価値観が未転換)
次の段階への転換を計画的に準備する。
準備の方法:
- スキル: 次の段階で必要なスキルを特定し、現段階のうちに練習する機会を作る
- 時間: 意識的に時間配分を変える実験をする(例:「今週は自分の作業を20%減らし、部下のコーチングに充てる」)
- 価値観: 次の段階のロールモデルを観察し、何を重視しているかを学ぶ
- 手放し: 前の段階の仕事を意図的に手放す練習をする(最も難しいが最も重要)
重要: 転換は一気に起こるものではない。昇進する前から少しずつ準備し、昇進後の最初の90日で一気にシフトする。
具体例#
4人のチームを率いるEM(エンジニアリングマネージャー)の加藤さんが、VP of Engineeringに昇進。3つのチーム(計15人)を統括することに。
起きた問題:
- 各チームの技術的な判断に口を出しすぎる(前の段階のスキルに固執)
- 3つのチームの1on1を全部自分でやろうとして時間が足りない(時間の使い方が未転換)
- 「コードレビューに参加しないと不安」と感じる(価値観が未転換)
パイプラインに基づく転換:
スキルの転換:
- 各チームのEMを信頼し、技術判断を委譲する
- 代わりに、3チーム間の優先順位調整、採用戦略の策定、他部門との連携を自分の仕事にする
時間の転換:
- 1on1はEMとのみ実施(週3回)。メンバーとの1on1はEMに任せる
- 空いた時間で経営会議への参加、採用面接、技術ロードマップの策定に充てる
価値観の転換:
- 「自分のチームの成果」ではなく「エンジニアリング組織全体の成果」を自分の仕事と定義
結果: 3ヶ月後、各チームのEMが自信を持って判断できるようになり、チーム全体のベロシティが25%向上。前の段階の仕事を手放すことで、組織全体のパフォーマンスが上がった。
SaaS企業のトップ営業・松本さん(32歳)。個人売上年間1.2億円の実績で営業マネージャーに昇進。5名のチームを統括。
起きた問題(昇進後3ヶ月):
- 部下の商談に同行し、途中から自分が喋り始めてしまう
- 部下の提案書を「自分ならこうする」と全面的に書き直す
- 自分の時間の**70%**が「自分で売る」ことに使われている
- チーム目標の達成率: 65%(前任マネージャー時代は85%)
パイプラインに基づく診断:
- スキル: 「売るスキル」はあるが「育てるスキル」がない → 未転換
- 時間: 自分の営業に70%使い、部下の育成は15%のみ → 未転換
- 価値観: まだ「自分が売れること」に誇りを感じている → 未転換
転換アクション:
- 自分の商談を月5件→2件に削減し、残りを部下に任せる
- 部下の商談に同行しても観察のみ。フィードバックは商談後に
- 週の時間配分を「自分の営業30%:コーチング40%:戦略30%」に変更
- 評価基準を「チーム全体の売上」に切り替え
6ヶ月後の変化:
- チーム目標達成率: 65%→105%
- 部下5名のうち3名が個人目標を超過達成
- 松本さんの個人売上は1.2億→0.4億に下がったが、チーム合計は4.5億→6.2億
「自分で売る」を手放したら、チーム全体の売上は1.7億円増えた。前の段階の成功パターンを捨てる勇気が、次の段階での成功を生む。
製造業の製造部長・高橋さん(48歳)。課長として10年間優秀な成績を残し、部長に昇進。3つの課(計60名)を統括。
起きた問題:
- 各課の課長を飛び越して、現場の係長に直接指示を出す
- 課長が「部長に相談しないと動けない」状態になっている
- 自分の時間の**80%**が現場の問題対応(本来は課長の仕事)
- 部門の中長期戦略が一切策定されていない(本来の部長の仕事)
パイプライン診断:
- パッセージ2(マネージャーのマネージャー)への転換が完了していない
- 課長時代の「現場を見て直接動かす」パターンを手放せていない
転換計画(3ヶ月):
- 月1: 現場への直接指示をゼロにすると宣言。課長を通じてのみ指示
- 月2: 空いた時間で3年間の部門戦略ドラフトを作成。各課長とすり合わせ
- 月3: 課長3名の育成計画を策定。課長が自律的に判断できる権限委譲ルールを明文化
定量的な変化:
- 高橋さんの現場対応時間: 80%→20%
- 戦略策定・他部門連携の時間: 5%→45%
- 課長の意思決定スピード: 平均3日→即日(部長の承認待ちがなくなった)
- 部門全体の生産性: 前年比+12%
「自分がいないと現場が回らない」は幻想だった。課長を信頼して任せたら、組織は自律的に動き始め、部長は本来の仕事(戦略と部門間連携)に集中できるようになった。
やりがちな失敗パターン#
- 前の段階の仕事を手放さない — 「自分でやった方が早い」は最大の罠。自分でやるたびに、部下の成長機会を奪い、自分の時間を浪費している
- 段階を飛ばす — パッセージ1を経験せずにパッセージ2に行くと、マネジメントの基本がないまま上位の仕事をすることになる
- スキルだけ変えて価値観を変えない — 会議の進め方やツールの使い方は変えたが、心の中では「自分の技術力こそ最大の武器」と思っている。これでは転換は完了しない
- 「昇進してから考える」と先延ばしにする — 転換は昇進前から始めるべき。昇進後の最初の90日で一気にシフトできるかが成否を分ける
まとめ#
リーダーシップパイプラインは、各段階で「スキル・時間・価値観」の3つを転換することを求めるフレームワーク。最も大事なのは「前の段階の成功パターンを手放す」こと。今の自分がどの段階にいて、何を手放し、何を身につけるべきかを診断してみよう。