キャリア持続可能性モデル

英語名 Career Sustainability Model
読み方 キャリア サステナビリティ モデル
難易度
所要時間 1時間
提唱者 ベアトリス・ヴァン・デル・ハイデン他
目次

ひとことで言うと
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キャリアを「短距離走」ではなく「マラソン」として設計するフレームワーク。健康・幸福感・生産性の3つを同時に維持しながら、長期にわたって働き続けられる条件を整える考え方。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
キャリア持続可能性(Career Sustainability)
長期間にわたってキャリアを維持・発展させられる状態。単に「辞めない」ではなく、健康で充実した状態で働き続けられること。
3つの指標
持続可能なキャリアを測る健康(Health)・幸福感(Happiness)・生産性(Productivity)。3つが揃って初めて持続可能と言える。
個人資源(Person Resources)
適応力・回復力・レジリエンスなど、個人が持つ心理的な資源を指す。
文脈資源(Context Resources)
組織の制度・上司の支援・同僚との関係など、環境側の資源を指す。

キャリア持続可能性モデルの全体像
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キャリア持続可能性:3つの指標を同時に満たす
持続可能3つが揃う状態元気で楽しい元気で成果楽しく成果Health ─ 健康Happiness ─ 幸福感Productivity ─ 生産性
キャリア持続可能性の診断フロー
1
3指標の診断
健康・幸福感・生産性の現状を評価する
2
欠けた指標の特定
3つのうちどれが低いかを明確にする
3
資源の投入
個人資源と文脈資源で低い指標を底上げ
持続可能な状態
3つが同時に満たされた状態を維持する

こんな悩みに効く
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  • 成果は出ているが、心身がボロボロで長く続けられる気がしない
  • 楽しく働いているつもりが、健康診断の結果が年々悪くなっている
  • 仕事は安定しているが、何のために働いているのかわからなくなった

基本の使い方
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3つの指標を自己評価する

健康・幸福感・生産性をそれぞれ10点満点で評価する。

指標評価の観点
健康睡眠の質、運動習慣、ストレスレベル、健康診断の結果
幸福感仕事への充実感、人間関係の満足度、成長実感
生産性成果の質と量、効率、組織への貢献度

3つすべてが7点以上なら持続可能な状態。1つでも3点以下なら早急な対策が必要。

欠けている指標の原因を探る

低い指標がある場合、その原因が「個人側」なのか「環境側」なのかを切り分ける。

  • 個人側: 生活習慣、思考パターン、スキル不足
  • 環境側: 長時間労働の文化、上司との関係、制度の未整備
個人資源と文脈資源で底上げする

原因に応じて、適切な資源を投入する。

  • 個人資源: 運動習慣、マインドフルネス、スキルアップ、人脈
  • 文脈資源: 制度の活用(時短、在宅)、上司との対話、チームの支援

具体例
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例1:高業績だが燃え尽きかけたコンサルタント

経営コンサルティング会社で6年。年間売上は部門トップで年収 1,200万円。しかし月の残業は 80時間 を超え、休日も常にメールをチェック。健康診断で「要精密検査」が3項目出た。

3指標の評価:

指標スコア状態
健康3/10慢性的な睡眠不足、胃痛、体重増加
幸福感4/10達成感はあるが「いつまで続くのか」という不安
生産性9/10売上・クライアント評価ともにトップクラス

生産性は高いが、健康と幸福感が危険水域。このままでは2年以内にバーンアウトするリスクが高い。

対策:

  • 個人資源: 週3回のジム通いを強制的にスケジュールに入れた。「仕事の予定と同じ優先度」として扱い、キャンセル不可にした
  • 文脈資源: パートナー(上司)に現状を共有し、担当案件を 5件 → 3件 に削減。単価の高い案件に集中する戦略に転換

半年後、売上は 15% 減少したが、健康スコアは 3 → 7 に改善。幸福感も 4 → 6 に上がり、「持続可能な働き方」に移行できた。年収は 1,020万円 に下がったが、「あの働き方を続けていたら確実に体を壊していた」と振り返る。

例2:幸福感だけが低い中堅メーカーのエンジニア

自動車部品メーカーで12年。技術力は高く評価も安定しているが、「何のためにこの仕事をしているのか」というモヤモヤが消えない。

3指標の評価:

指標スコア状態
健康7/10定期的にランニング、健康診断はオールA
幸福感3/10やりがいを感じない、成長が止まった感覚
生産性7/10求められる仕事はきちんとこなしている

健康と生産性は維持できているが、幸福感だけが低い。このパターンは「静かな離職」に繋がりやすい。

原因分析:

  • 12年間同じ製品ラインを担当し、新しい挑戦がない
  • 技術の進歩に対して「追いつけなくなる不安」もある
  • 一方で転職する勇気もなく、現状にしがみついている

対策:

  • 個人資源: 社外の技術コミュニティに参加し、EV関連の最新技術を学び始めた
  • 文脈資源: 上司に「EV関連プロジェクトに関わりたい」と申し出て、次期開発プロジェクトのメンバーに選ばれた

1年後、幸福感スコアは 3 → 7 に改善。新しい技術領域に触れたことで「学びがある状態」が戻り、仕事への意味づけが復活した。

例3:健康を犠牲にして「楽しく成果」を出し続けた飲食店オーナー

35歳で独立し、居酒屋を開業して8年。月商 350万円 の繁盛店に育て、仕事は楽しい。しかし年中無休で1日14時間労働。43歳で急性膵炎で緊急入院した。

3指標の評価(入院前):

指標スコア状態
健康2/10毎日の飲酒、睡眠4時間、運動ゼロ
幸福感8/10常連客との関係、自分の店を持つ誇り
生産性8/10月商は右肩上がり

幸福感と生産性は高いが、健康だけが極端に低い。典型的な「楽しくて成果が出ているが持続不可能」パターン。

入院をきっかけにした対策:

  • 週1日の定休日を設定(8年間で初めて)
  • アルバイト2名を正社員に昇格させ、ランチ営業の責任者を任命
  • 自分の労働時間を1日 14時間 → 10時間 に削減
  • 月1回の通院と禁酒日(週2日)を厳守

月商は一時的に 350万円 → 300万円 に下がったが、正社員の成長により半年後には 320万円 まで回復。健康スコアは 2 → 6 に改善し、「店を60歳まで続ける」という長期ビジョンが初めて見えた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 生産性だけを追いかける — 成果が出ているうちは問題に気づかない。しかし健康や幸福感が低い状態は必ず生産性にも波及する。崩壊は突然やってくる
  2. 幸福感の低さを「贅沢な悩み」と片づける — 「給料もらっているのに文句を言うな」という自己検閲は危険。幸福感の欠如は離職や生産性低下の最大の予兆
  3. 健康を「後で取り戻せる」と思う — 若いうちは回復が早いが、慢性的な健康問題は蓄積する。40代以降に一気にツケが来る
  4. 環境側の問題を個人の努力で解決しようとする — 長時間労働の文化やハラスメントは個人のレジリエンスでは対処できない。文脈資源(制度改善、異動、転職)を使う判断も必要

まとめ
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キャリア持続可能性モデルは「成果を出し続ける」だけでなく「健康で幸せに成果を出し続ける」ための枠組み。3つの指標のうち1つでも欠けると、長期的にはキャリア全体が崩壊するリスクがある。定期的に3指標をチェックし、低い指標を早めに底上げすることが、キャリアの寿命を延ばす最も確実な方法になる。