キャリアラティス(横移動のキャリア)

英語名 Career Lattice
読み方 キャリア ラティス
難易度
所要時間 1〜2時間
提唱者 キャシー・ベンコ & モリー・アンダーソン(デロイト)
目次

ひとことで言うと
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従来の「はしご(ラダー)」型キャリア(上に昇るだけ)ではなく、格子(ラティス)のように上下左右斜めに自由に動けるキャリアモデル。横移動や斜め移動を積極的に活用することで、多様な経験を積み、結果的に独自の市場価値を構築する。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
キャリアラダー(Career Ladder)
同じ職種内で役職を上がっていく従来型の一方向キャリアパスのこと。昇進が唯一の成功指標となるため、ポストが空かないと行き詰まる。
キャリアラティス(Career Lattice)
上下左右斜めに自由に動ける格子状のキャリアモデルを指す。横移動や斜め移動を戦略的に活用して、ユニークな人材になることを目指す。
横移動(Lateral Move)
役職を変えずに異なる部署・職種・領域へ移動すること。一時的にポジションが下がっても、長期的には独自の市場価値につながる。
ポータブルスキル
特定の職種・業界に限定されず、どこでも通用する汎用的なスキルのこと。横移動のたびに蓄積され、キャリアの一貫性を支える。
ジグザグキャリア
一見バラバラに見える複数の異動・転職を経て、結果的にユニークなスキルの組み合わせを持つキャリアの軌跡である。

キャリアラティスの全体像
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ラダー(一方向)とラティス(多方向)のキャリアの違い
キャリアラダー(従来型)部長課長主任メンバー方向:上のみポストが空かないと停滞キャリアラティス(新型)開発リーダーSREエンジニアテックPMUXエンジニア方向:上下左右斜め経験の幅×深さで独自性を構築ユニークな人材へ
キャリアラティスの実践ステップ
1
現在地を確認
今のスキルと移動可能な方向を把握
2
移動方向を選ぶ
上・横・斜め・下から戦略的に選択
3
目的と期間を設定
何を得たいか、何年で習得するか
独自価値の構築
経験の掛け算でユニークな人材へ

こんな悩みに効く
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  • 「昇進」以外のキャリアの進め方がわからない
  • マネジメントに興味がないが、専門職のキャリアパスが見えない
  • 今のポジションで頭打ちを感じているが、転職以外の選択肢を探したい

基本の使い方
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ステップ1: キャリアラダーとキャリアラティスの違いを理解する

従来の「ラダー(はしご)」と「ラティス(格子)」の違いを理解する。

キャリアラダー(従来型):

  • 方向:上に昇るだけ
  • 成功の定義:役職が上がること
  • 移動パターン:同じ職種で昇進
  • リスク:ポストが空かないと止まる

キャリアラティス(新型):

  • 方向:上下左右斜め、自由に動ける
  • 成功の定義:経験の幅と深さ、自分らしさ
  • 移動パターン:異動、兼務、プロジェクト参加、一時的な降格も含む
  • メリット:ポストに依存しない柔軟なキャリア構築

ポイント: ラティス型は「遠回り」に見えて、長期的にはユニークな人材になれる。

ステップ2: 自分のキャリアマップを描く

現在のポジションを中心に、移動可能な方向を洗い出す。

移動の方向:

  • : 昇進、マネジメント職へ
  • : 異なる部署・職種への異動(営業→マーケティング、開発→QAなど)
  • 斜め: 少しずれた領域(フロントエンド→UXエンジニア、経理→FP&Aなど)
  • : 一時的にポジションを下げて新しい領域に挑戦
  • : 社外プロジェクト、出向、副業

ポイント: 「下に動く」ことにネガティブな意味はない。新しい分野でのジュニアポジションから始めることで、将来のユニークなキャリアが開ける。

ステップ3: 横移動の価値を最大化する

横移動を「ただの寄り道」ではなく「戦略的な経験蓄積」にするための計画を立てる。

横移動の価値を最大化するポイント:

  • 目的を明確にする: この移動で何を得たいのか(スキル、知見、人脈)
  • 期間を決める: 「2年間でこの領域の基礎を習得する」など
  • 前のポジションの知見を活かす: 完全にリセットせず、持ち運べるスキルを意識する
  • 学びを言語化する: 横移動の経験をキャリアのストーリーに組み込む

ポイント: 横移動のたびに「なぜこの移動をしたか」を説明できるようにしておく。一貫したストーリーがあれば、ジグザグなキャリアも強みになる。

ステップ4: ラティス型キャリアを実践する

具体的にラティス型の動きを始める。

実践方法:

  • 社内公募制度を活用する: 異動希望を出す
  • プロジェクト単位で他部署に参加する: 兼務やタスクフォース
  • ジョブローテーション: 制度があれば積極的に手を挙げる
  • 社外活動: 副業、NPO、プロボノで別の役割を経験する
  • 一時的な降格を受け入れる: 新しい分野のエントリーレベルから始める勇気

ポイント: 上司に「横移動したい」と伝えるときは、「組織にとってのメリット」も含めて提案すると受け入れられやすい。

具体例
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例1:システムエンジニア・中島さん(33歳)がマネジメントを降りてSREに横移動する

課題: 開発チームのリーダーに昇進したが、マネジメント業務が合わない。「もう上に行くしかないのか」と悩んでいる。

キャリアマップの作成:

  • 上方向:開発マネージャー → CTO(マネジメントが合わないので除外)
  • 横方向:SRE、データエンジニア
  • 斜め方向:テクニカルPM
  • 下方向:シニアエンジニア(専門特化)

選択: マネジメントを降りて「SRE(サイト信頼性エンジニア)」に横移動を決断。

実行:

  • 上司に「技術的な成長を優先したい」と相談
  • SREチームに異動。リーダー職を降り、メンバーとして再スタート
  • 一時的に年収が30万円下がるが、1年後にSREの専門性で評価されて回復

2年後、「開発もインフラもわかるSRE」として独自の市場価値を確立。昇進競争を降りたことが、結果的に最も賢い選択だった。

例2:経理担当・山本さん(28歳)が斜め移動でFP&Aに転身する

課題: 経理の仕事は安定しているが、単調な月次決算の繰り返しに限界を感じている。転職も考えたが、今の会社の事業が好き。

キャリアマップの作成:

  • 上方向:経理マネージャー(人数が少なくポストが空かない)
  • 横方向:人事、総務(興味がない)
  • 斜め方向:FP&A(経営企画的な財務分析)、IRチーム
  • 外方向:スタートアップのCFO候補(まだスキル不足)

選択: FP&A(Financial Planning & Analysis)への斜め移動。経理の知識をベースに、経営判断に直結する分析業務に挑戦。

実行:

  • 社内のFP&Aチームの月例ミーティングにオブザーバー参加(3ヶ月間)
  • ExcelからBIツール(Tableau)への移行プロジェクトに自ら手を挙げた
  • 6ヶ月後に正式にFP&Aチームに異動

年収420万円→500万円。「経理×データ分析×事業理解」の掛け算が、転職市場でも引き合いを増やした。

例3:営業マネージャー・高橋さん(40歳)が一時的に降格してカスタマーサクセスに移る

課題: 営業マネージャー歴5年、年収850万円。部下15名のマネジメントに疲弊し、「もう一度プレイヤーとして顧客に向き合いたい」と感じている。

キャリアマップの作成:

  • 上方向:営業部長(さらにマネジメント業務が増える)
  • 横方向:マーケティングマネージャー、事業開発
  • 下方向:カスタマーサクセス(メンバーとして顧客対応に専念)

選択: カスタマーサクセスチームにメンバーとして異動。役職は一時的に外れる。

実行:

  • 年収は850万円→750万円に下がることを受け入れた
  • 営業で培った「顧客の本音を引き出す力」をCS業務で発揮
  • 解約率(チャーン)を6ヶ月で月次2.1%→1.4%に改善

年収850万円→750万円→880万円。一度下がって、前より上がった。ヘッドハンターからの連絡は月3件。「営業→CS」という横移動が、SaaS企業では希少スキルになった。

やりがちな失敗パターン
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  1. 横移動を「逃げ」と捉えてしまう — 横移動は「逃げ」ではなく「戦略的な選択」。目的を明確にして移動すれば、長期的に大きなリターンが得られる
  2. 横移動ばかりで深さが出ない — 2年ごとに全く違う分野に移ると「広いが浅い」人材になる。各ポジションで一定の深さ(最低1〜2年)を確保してから次に移る
  3. 周囲の「キャリアラダー思考」に流される — 「なぜ昇進しないの?」という周囲の声に惑わされない。自分のキャリアの成功は自分で定義する
  4. 移動の目的とストーリーを言語化しない — 「なぜこの移動をしたか」を説明できないと、ただの迷走に見えてしまう。転職活動時にも「このジグザグがあるからこそ今の自分がある」と語れるようにしておく

まとめ
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キャリアラティスは「上に昇ることだけがキャリアではない」という発想の転換を促すキャリアモデル。横移動や斜め移動を戦略的に活用することで、多様な経験を積み、結果的にユニークで代替されにくい人材になれる。「昇進」という一本道に縛られず、自分だけの格子状のキャリアを描いていく自由がある。